断捨離するシーンやバッグの大きさついての描写がある漫画『A子さんの恋人』から学ぶミニマリストの生態と題して、先日から記事を書いています。
今回は「実家の片付け」にフォーカスします。

その1はこちらからどうぞ。


5巻の中で、主人公A子さんが実家の自室を片付けるシーンがあります。
ここで学生時代の成果物と向き合います。

印象深いのが、初めは何を残していいのかわからずにいたのに、
最後にはバッグ1つ分だけ今の住まいに持ち帰り、階段にずらりとゴミ袋を並べていくシーン。

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P111より

「え!?これ全部要らないの?」というお母さんの言葉に対して、A子さんはこう言います。
「要る・要らないじゃなくて大切な物だけ残したのよ」

これが衝撃でした。

どこかでものを残す上での物差しを獲得したんですよね。

順を追って見ていきます。

学生時代の制作物。要るといえば要る、要らないといえば要らない。

初めのうちはA子さんも凡人的な感覚で、
「要らないといえばどれもこれも要らないし、要るといえば全部要る」と、判断が揺らいでいます。


コマの中に描かれているものを一つ一つ見ていきます。


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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P109より

左上のクマの形をしたハンガー。ぱっと見要らなさそう。でも渡米する26歳まで残していたことを考えると、思い出深いのかもしれない。
うさぎの絵柄のセロハンテープ、ぬいぐるみ的なもの。意外と動物モチーフが好きな時代があったんですね。この人今はしれっとしてるのでこういう可愛らしいものが好きな時代があったというのが人間の人生を感じます

でもこれは手放し難易度で言えば易しい方な気がしますね。

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P109より

次に学生時代の作品。ここで難易度が爆上がりします。
テーブルの脇に絵が立てかけてあります。


自分の作ったものって手放すのが難しいですよね。
課題提出まで一ヶ月だったとすると、その一ヶ月間の、アイデアを出すためにぐるぐると校内を散歩して回ったことだとか、締め切り前に大学に泊まり込んだことだとか、そういう記憶が蘇ると思います。
作品を捨てるということは、そういう自分の努力を捨ててしまうような気持ちになります。
要るといえば要る。
けれど、要る・要らないを「ここ半年使ったか?この先半年使うか?」という視点で置き換えてみると、多分「要らないもの」ですよね。



画材や製図道具的なものもいくつも描かれています。

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P109より

三角定規、絵の具もあります。

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P109より

A子さんが手に持っているのは筆洗ですね。右上にはパレット、竹定規もあります。
スケッチブックもクロッキー帳もあります。
 
これ、耳に痛いというか目に痛い。
自分も実家に置いてあるものばかりです。
筆洗・パレット・絵の具はまた使うかなと思って今の住まいに持ってきていますが、
三角定規にT定規は実家に置きっぱなしです。

そしてA子さんは考えます。
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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P110より

「いや、『要る』というより『捨てられない』のかな?」
「では 『捨てられないもの』が『要るもの』なんだろうか?」


そして冒頭で紹介した衝撃的なゴミ袋を階段に並べるシーンにたどり着くわけです。


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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P111より

A子さん「要る・要らないじゃなくて 大切な物だけ残したのよ」
母「え!!?大切な物ってそれだけ?」
A子さん「うん これだけ マンガ原稿とかだけだから 今日持って帰る」
と言って、トートバッグ一つもって電車に乗って帰ります。


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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P111より

26年分の生活が詰まった自室の持ち物が、トートバッグ1つに収まっていく。

「大切なもの=今の暮らしに必要なもの」だけ残す

A子さんは学生時代にデビューしているのですが、
そのラストについて「別の終わらせ方があったのではないか?」と考え続けている漫画原稿を、今の住まいに持って帰ることにします。

学生時代につくったあらゆる作品を手放して、漫画原稿を持ち帰った。

これを残したのは「問い」(というか課題)だったからです。
この話はA子さん自身とA太郎について考えた物語です。
この話を納得いく形で終わらせることで、A太郎と別れられずにいることやAくんとの問題を解決できるのではないかという、現状の悩みにおける解決の糸口になると考えて、
“この問いに取り組むことにした”から持ち帰りました。

この問いに取り組むことは、A子さんの今後の創作活動においても必要なもので、
なおかつA子さんの人生の決断(Aくんのプロポーズを受けるか否か、A太郎と別れるか否か)においても必要なものです。


多分、A子さんの創作活動についてよく知らない人から見たら「なんでそれは残してそれは手放すの?」って思うんじゃないですかね。

キャンバスに描いた絵は手放して、すでに雑誌に掲載済みの原稿は手放すの?
世界に一つしかない希少性で言えばキャンバスに描いた絵の方では?
みたいな見方をする人もいるんじゃないかと思います。

きっと大切なものというのは他人から見たら違いがわからないんじゃないでしょうか。
本人にしかわからないし、本人がわかっていればそれでいいんだな、ということを思いました。

ものを「今」と「過去」に分ける

A子さんは、自分の作ったものを2つに分けました。
学生時代の作品と、現在の仕事(漫画)の作品です。

学生時代の作品は手放し、漫画原稿は持って帰りました。
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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P110より

学生時代の作品は思い出は詰まっているものの、今の生活で必要なものではなく、過去のものです。

漫画原稿は現在のキャリアにつながるもので、なおかつデビュー作はもう一度ラストを考え直すことでA子さんの人生についての答えが隠れているかもしれないものです。
A子さんにとって取り組まなければならない問いで、「今」必要なものです。

A子さんは、
大切なもの=今必要なものを残し、
過去大切だったけど今は必要ないもの・もう完了しているもの=過去のものは手放しました。


自分も実家に置いてきたものの断捨離において必要なのは、このものさしだなと思いました。
模型や図面、今も置いてあります。棚の上なんかに。
今の暮らしには必要なくて、手放したいけど努力の記憶ごと捨ててしまうようで今一歩踏み出せない、今のキャリアには関係のないもの。
捨てられないから実家に置かせてもらっているものたち。完全に過去のものです。


自室は基本的に空っぽにしてから出ていくべきなんですよね。
実家に置いてきた学生時代の作品も画材も、
実家に置いている時点で基本的に「現在使っていないもの」です。
捨てられない思い出、がんばった成果物、そういう「捨てるという決断ができないもの」の集積場みたいになってしまっている。
今の住まいに持っていきたいと思えないものは過去のものです。


「今」必要なものというのは、実用の道具かどうかということではなく、今の生活に必要かどうかということです。
思い出の品でも、それを取り出しては見返して懐かしくなるために必要なものなら、それは「今の暮らしに必要な大切なもの」です。
取り出して見返すという行為をしなかったとしても、捨てずにそこにあるということに意味があるというものもあるでしょう。
いずれにせよ、心のお守りでも、もう一度取り組みたい課題でも、思い出の品でも、
今の住まいで持っていたいものは、A子さんのいうところの大切なもの=残すものなのだと思います。

そういえば片付けの本でも「今にフォーカスしましょう」ってよく聞く言葉ですよね。

今度実家に帰ったら、今と過去に分類して手放し作業をします。
(帰省のたびにぼちぼち片付けてはいるのですが…)

ものはスッパリ手放せても人との関係を終わらせられない

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』5巻 P111より

階段にずらりとゴミ袋。
この絵一枚見ると、あまりにも思い切りがよすぎて、A子さんには人の心があるのか?同じ人なのか?みたいな気持ちにもなるかもしれません。

けれど、今の住まいがすっきりしているA子さんも、29歳の今まで実家に置いてきたものがあったというところに人間らしさを感じるし、
自分にとっての問いであるデビュー作と、今の仕事の礎になったマンガ関連のものだけ持ち帰るところにA子さんの個性を感じます。

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『A子さんの恋人(近藤聡乃)』4巻 P144より。A子さんの今の住まい。めちゃくちゃスッキリしてる。

そして忘れてはいけないのが、このA子さんという人は人との関係を終わらせられない人だということ。

A太郎との関係は実質的には4年生の頃には終わりかけていた。
A子さんから別れを告げようともした。けれど、情が残っていてできなかった。
結局渡米するまで別れずにきてしまい、空港でお別れするつもりだった。けれどそれもできなかった。
Aくんにプロポーズされて、YesともNoとも答えを出せないまま日本に帰国してしまった。

あんなに軽々といろんなものを捨てていく人が、
好きなことを仕事にして(A子さんは学生時代に漫画家デビューして漫画家として食べていっています)身軽にアメリカ大陸まで渡ってしまう人が、
人にお別れが言えないんですよね。
愛がなくなっても情を切れない。
それが人間の多面体な部分を見るようで面白いなと思います。
(A太郎とAくんからするとたまったもんじゃないかもしれませんが。)
なお、関係を終わらせられないのは優しいとか愛があるとか優柔不断とかそういう話ではなくて、相手と自分の互いに残った呪いの話だと思って読んでます。


だからA太郎と自分の関係に関わるデビュー作にもう一度取り組むことで答えを出そうとしてるんですよね。

ものはスパッと手放せても人との関係は同じようにはいかないところに”人間の物語”を感じます。



おわり。


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捨てたいけど捨てられないものについて


手放すか悩み続けているもの。なんとかリメイクして生きながらえさせられないかと思う。


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